米酢ができるまで|日本と世界の酢の歴史・文化も紹介

米酢は日本人にとってなじみのある調味料ですが、製造方法を知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。どのようにして作られるのかを知ると、味や品質の違いがなぜ生まれるのかがわかりやすくなります。

そこでこの記事では、米酢ができるまでの工程を詳しく解説します。後半では酢の歴史や世界のお酢文化も紹介するので、お楽しみください。

もくじ

米酢ができるまでの8つの工程

米酢ができるまでの8つの工程は次のとおりです。

  1. 精米
  2. 米を蒸す
  3. 麹づくり
  4. 酒母(しゅぼ)の仕込み
  5. 醪(もろみ)づくり
  6. 仕込み~発酵
  7. 熟成
  8. ろ過・火入れ

精米

精米された米

原料となる米を精米します。精米歩合によって味に違いが出るため、商品やメーカーによる差が出やすい部分です。なお、精米歩合は、玄米から表層部を削って残った米の割合を指します。

表層部にはタンパク質があり、タンパク質が多いと旨味や独特の香りが強く、少ないとすっきりした味わいになります。精米歩合(%)ごとの違いは次のとおりです。

精米歩合特徴
100%・玄米そのもの・旨味と香りが強い・玄米酢・黒酢に使われる
90%・一般的な食用米(白米)の精米歩合
83%一般的な米酢の精米歩合・旨味を残しつつすっきりした味わい
70%以下・一般的な日本酒(本醸造酒)の精米歩合・雑味や旨味も楽しめる味わい
60%以下・吟醸酒の精米歩合・雑味が少なく爽やかながら旨味もある味わい
50%以下・大吟醸酒の精米歩合・雑味がなく気品のある香り

米を蒸す

大きな鍋で米を蒸している

精米した米を洗い、吸水加減を見極めながら浸水させます。米だけでなく水も品質を左右する重要な材料です。老舗の酢造元などでは湧き水や山の伏流水など、こだわりの水を使っています。

浸水させた後、甑(こしき)や蒸し釜などの蒸し機などを使って蒸します。浸水から米を蒸し上げるまで、繊細かつ一日がかりの作業です。

麹米づくり

蒸し上がった米に麹菌を混ぜます。麹菌がまんべんなく混ざり、なおかつ熱のムラができないように、2日かけてほぐしながら麹を育てる重要な作業です。

糖化とタンパク分解力が強い麹を作るため、温度と湿度を一定に保つ麹室でおこないます。

酒母(しゅぼ)の仕込み

麹米・水・酵母を混ぜて酒母をつくる作業です。細やかな温度管理をしながら2週間~1カ月ほど寝かせます。

醪(もろみ)づくり

醪

酒母・水・麹・新たな蒸し米をタンクや木桶にいれて発酵させ、「酢もともろみ」を作ります。アルコール発酵がおこなわれる工程です。麹が米のでんぷんを糖化し、酵母が糖分をアルコール化します。

この過程で米のでんぷんが酒精に変わり、酢の原料となる甘酒が生み出されます。タンパク質がアミノ酸に変化して旨味となるのも、この工程です。なお、一度に全てをまぜると酵母濃度が薄まったり雑菌が繁殖したりするので、材料を3回に分けて投入します。日本酒製造では「三段仕込み」と呼ばれる工程です。

アルコール発酵は30日程度をかけて、じっくりとおこなわれます。見た目や味で発酵具合を確かめながら、温度管理や櫂入れ(注1)をおこなう、杜氏(注2)の重要な仕事です。

(注1)櫂入れ:オールやデッキブラシのような形状の「櫂」で原料を混ぜる作業
(注2)杜氏(とうじ):酒・酢造りの最高責任者。

仕込み~発酵

タンクや木桶に酢もともろみ・水・種酢を加えて40℃にあたため、酢酸発酵をおこないます。種酢は酢造元・メーカーが代々受け継いできたもので、味の違いを生み出す重要な材料です。昔ながらの蔵や木桶で仕込む場合は、蔵や木桶に住んでいる酢酸菌もはたらきます。

温度と空気調節を管理しながら1~4カ月間、手を加えずに静置発酵させると、ちりめん状の酢酸菌膜が表面に現れてきます。空気を好む酢酸菌がはたらいており、酢が醸し出されている証です。ただし、大量生産の場合は熟成をおこなわず、1日で強制的に発酵させることもあります。

熟成

醪の熟成

発酵が終わったら熟成蔵に移して熟成させます。アルコール分が酢に変化し、まろやかな旨味が引き出される工程です。酢造元・メーカーによって熟成期間には差があり、2カ月程度のケースもあれば、1年近く寝かせるケースもあります。

なお、ただ寝かせておくだけではありません。空気を好む酢酸菌がよくはたらくように、タンクや木桶を入れ替える作業があります。入れ替えをおこなうことで、よりまろやかな風味に仕上がります。

ろ過・火入れ

完成した米酢

熟成が終わると、ろ過してから発酵を止めるために火入れをおこないます。その後は瓶詰めして検品、出荷です。

お酢の歴史

酢の歴史

自然界に存在する酵母・酢酸菌が果物などを発酵させ、自然につくられたものがお酢の始まりといわれています。文献に残っている最古のお酢は、紀元前5000年ごろのメソポタミアで、干しブドウやデーツを使って作られたものです。

その後、紀元前4世紀頃にギリシアの医師によって治療にも使われたといわれています。

日本に酢造りの文化が伝来したのは4~5世紀頃です。酒の醸造技術とともに伝わり、日本の酢の文化が発展していきました。江戸時代になると酒粕を長時間寝かせて作る「粕酢」が発明され、現代では「赤酢」とよばれる酢の原型となりました。今も江戸前寿司ではシャリに赤酢を用いています。

世界のお酢文化

世界を見渡すと米酢をはじめとした穀物酢以外にも、さまざまなお酢があります。傾向として見えてくるのは、酒の名産地で酢造りも発展しているということです。

たとえば、ワインの産地ではワインビネガーやバルサミコ酢、シェリー酒の産地ではシェリービネガーが作られています。シードル(りんご酒)の産地で作られる、シードルビネガー(アップルサイダービネガー・りんご酢)などもあります。

ヨーロッパでは酢にスパイス・ハーブ・果物などを漬け込んでフレーバービネガーを作ることもあります。これもサングリアなどのお酒を楽しむ文化と似ているといえるでしょう。フレーバービネガーはドレッシングやマリネ、ピクルスづくりなどに使われています。

お酢の知識を深めて楽しもう

グラスに入った米酢

米酢を含め、酢造りには水と穀物・果実が欠かせません。これらは酒造りにも共通しているため、綺麗な水と農作物が豊かな地域で酒と酢の文化が発展してきました。

また、酢造りにおいては酵母や種酢も重要な役割をはたしていることもわかりました。木桶や蔵に住みついた酢酸菌もはたらくなど、酢造元が大切に守ってきたものが風味に違いをもたらしています。さらに、仕込み・発酵・熟成期間も酢造元によって異なります。

酢をこだわって選びたい人は造り方にも着目してみましょう。知識を深めてチェックしてみると、自分のお気に入りのお酢に出会いやすくなるはずです。

酢の生産方法Q&A

酢の価格帯はいろいろありますが、何が違うのですか?

一般的に、酢の価格が高くなる・低くなるのには次のような理由が考えられます。

<価格が高くなる理由>
・良質な米を使っている
・使っている米の量が多い
・「静置発酵法」でじっくりと時間をかけて発酵
・熟成期間が長い

健康成分であるアミノ酸・旨味が豊富で、まろやかな味わいのお酢が多いと考えられます 。

<価格が安くなる理由>
・古米やクズ米など、低品質な米を使っている
・アルコールを添加して作っている
・「通気発酵法」で短時間で発酵
・熟成期間が短い

さっぱりとしていて、酸味が際立ったお酢が多いと考えられます もちろん、各社の努力によって価格を抑えている部分もありますので、高いから・安いからというだけで一概に上記の内容が当てはまるとはいえません。 ラベルの表示やWebサイトなどで、原材料や製法を確認してみてください。

酢にアルコールが入っているものがあるのはなぜ?

生産工程の項目で見てきたように、米酢は米をアルコール発酵させ、酒にしてから酢酸発酵をさせています。 しかし米は高価なため、原料の一部をサトウキビやトウモロコシなどから作られる醸造アルコールで代用することがあるのです。

このアルコールは酢酸発酵して酢となるため、製品には残りませんが、米酢独特の旨味や成分には欠けたお酢となります。 また、醸造アルコールは輸入されたものが大半で、遺伝子組み換えの心配も残るため、安全面からもあまりおすすめはできません。

参照
富士酢醸造元 飯尾醸造 – 酢造り – 醪の仕込み (iio-jozo.co.jp)
精米歩合とは?日本酒の香り・味わいは精米歩合でどう変わる? – 酒みづき (sawanotsuru.co.jp)
日本酒の精米歩合とは?味わいを左右する「磨き」を解説 – KUBOTAYA (asahi-shuzo.co.jp)

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この記事を書いた人

90年代生まれ。猫が大好きなのに猫を飼っていない人。食べ物も大好きで、家庭菜園が趣味ですが料理も栽培もなかなか上達しません。

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