腸内環境の改善や免疫力の向上など、ここ最近注目を集めている乳酸菌。その生息場所によって「動物性乳酸菌」と「植物性乳酸菌」の2つに分類されることはご存知ですか?
ヨーグルトやチーズなど、動物質の中で生きる乳酸菌は「動物性乳酸菌」。
漬物や味噌、醤油など植物質の中で生きる乳酸菌を「植物性乳酸菌」と呼んでいます。

「植物性乳酸菌って一体何のこと?」
「動物性と植物性はどう違うの?」
「植物性と動物性、どちらの乳酸菌が自分の体に合っているの?」

乳酸菌への注目が高まるのと同時に、かわしま屋にもこのようなお問い合わせが届くようになりました。
今回はそんな疑問を徹底的に解消すべく、植物性乳酸菌研究の第一人者である岡田早苗先生にお話をうかがいました。
あなたの健やかな生活に、岡田先生のお話をぜひお役立てください。

岡田早苗先生

プロフィール

◎高崎健康福祉大学教授 岡田早苗先生

高崎健康福祉大学農学部教授。東京農業大学名誉教授。
1988年に論文で「植物性乳酸菌」という言葉をはじめて発表。
専門分野は、微生物学、微生物利用学、微生物分類学。約6000株の乳酸菌を保存している菌株保有室の室長を歴任。
植物性乳酸菌研究の第一人者として現在も研究に勤しみ、企業の商品開発にも広く協力している。

Q1 植物性乳酸菌とは一言でいうと、どのようなものでしょうか?

植物性乳酸菌とは、乳酸菌の一種です。乳酸菌の中でも植物由来のものに生息する菌を植物性乳酸菌と呼んでいます。学術的には、乳酸菌に「植物性」や「動物性」という区別はありません。

――岡田先生がご自身の論文ではじめて「植物性乳酸菌」という名称を提唱されましたが、従来の乳酸菌と分けて考える必要があったのでしょうか?

はい。「乳酸菌」と聞くと、ヨーグルトを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
私は長らく植物由来の乳酸菌を研究していますが、「乳酸菌を研究している」と話すと、いまだに「ああヨーグルトの乳酸菌ね」という答えが返ってくることが多いんです。そのくらい、『乳酸菌といえばヨーグルト(動物性由来)』という認識が一般的になっているのではないでしょうか。

植物性乳酸菌

その一方で、企業から「野菜や果物のジュースを乳酸発酵させる研究開発をしているのですが、乳酸菌がどうしても繁殖しないんです」といった相談を多く受けてきました。
そういった場合の開発プロセスを調べてみると、ヨーグルトの乳酸菌を分離してジュースに入れ、乳酸発酵させようとしているケースが多々ありました。
ヨーグルトに生息する乳酸菌と、植物に生息する乳酸菌とでは、乳酸菌が生える環境がまったく違います。日々研究をしている私にしてみたら当然のことでしたが、世間一般の方にとっては『乳酸菌といえばヨーグルト(動物性由来)』という発想のほかはなかったのだと思います。

そんなこともあって、みなさんがよく知っているヨーグルトの乳酸菌とは別の特徴を持つ乳酸菌をイメージしてもらえるように、「植物性乳酸菌」という言葉をあえて使ったというわけです。
学術的にいえば「動物性」「植物性」という区別はなく、どちらも乳酸菌の一つになります。なお、乳酸菌全体で見ると、多くは植物性乳酸菌であり、動物性乳酸菌というのは非常に稀な菌になります。

Q2 植物性乳酸菌にはどんな機能があるのでしょうか? また、体にどんないい影響が期待できますか?

植物性乳酸菌の機能を調べるときは、動物性乳酸菌と同様のものが備わっているかを調査していきます。そうすると、植物性乳酸菌も動物性乳酸菌と比べて遜色はなく、ほとんど同じような機能があることが分かります。

ただ一つ大きな違いとして、植物性乳酸菌の機能の高さがあります。
動物性乳酸菌と植物性乳酸菌の機能を比べると、動物性の5〜6倍高い機能を持った植物性乳酸菌がゴロゴロいるんです。
これまでヨーグルトの乳酸菌にはいろいろな機能があることは解明されてきましたが、それぞれの活性度よりもさらに高い機能が植物性乳酸菌にあることが分かっています。

植物性乳酸菌にはどんな機能があるのでしょうか?

――植物性乳酸菌は主に整腸作用や、免疫力を高めることが期待できるといわれています。それ以外に期待できることはありますか?

例えばコレステロールを下げるとか、肌をきれいにするなど、色々な効能がうたわれています。その点に関しては諸説あると思いますので、ご自身で判断されるのがよいと思います。

Q3 植物性乳酸菌と動物性乳酸菌、どちらが人の腸に届きやすいのでしょうか?

生菌(生きている菌)の場合だと、植物性乳酸菌のほうが明らかに人の腸に届きやすいです。

――植物性乳酸菌の方が過酷な環境でも耐え抜く強さがある、ということなのでしょうか?

ええ。植物性乳酸菌と動物性乳酸菌は、普段生息している環境がまったく違うんですね。動物性乳酸菌は、主にミルクという非常に恵まれた環境で生きている。ミルクというのは生まれたての動物が口にする食品であり、栄養分としてビタミン、アミノ酸やミネラルなど、すべて完璧にそろっている。

過酷な環境でも耐え抜く強さ

それに対して植物というのは、ミルクに比べると過酷な環境になります。植物たちは自分が生きていくために、ポリフェノールという成分を持っています。例えば虫が来たり、風が吹いたりして植物体に傷がついたときに、傷口から悪い菌が入ってこないように作用してくれる。このポリフェノールの作用はかなり刺激が強いのですが、植物性乳酸菌はその中でも生き抜いて生育することができます。

そういった過酷な環境の中でも生育しているのが植物性乳酸菌ですから、一般の微生物にとって悪い環境でも耐えられる能力を持っているわけですね。
体内には胃酸があり、十二指腸では強アルカリにさらされる。これも動物が獲得した能力で、食中毒などの菌を殺すための一つの手段なんですね。そのような環境では、明らかに動物性乳酸菌より植物性乳酸菌の方が生き抜いていける強さがあります。

このように植物性乳酸菌と動物性乳酸菌それぞれが生息している環境を考えれば、明らかに植物性のほうが生きた状態で腸に届きやすいということがおわかりと思います。

Q4 動物性乳酸菌と植物性乳酸菌とでは、体との相性に違いはありますか?

日本で庶民がミルクを口にするようになったのは、明治中期以降になります。それまでは日本人のほとんどが牛乳をまったく飲んでいなかったのです。
聖徳太子の時代、西暦でいうと600年頃に日本に仏教が入ってきました。それ以来、日本では仏教の教えにしたがって動物質の物を口にすることが禁止されました。それから1000年以上もの間、日本人はずっとミルクを摂取していません。
特にヨーグルトが一般的に食べられるようになったのは、1950年以降のことです。それ以前の日本人はヨーグルトの乳酸菌とはまったく接触がありません。

では、それまで日本人は何によって乳酸菌と接触していたかというと、漬物など、野菜の発酵したものに生息している乳酸菌でした。ですから、日本人には新参者のヨーグルトの乳酸菌よりも、1〜2世紀前から食べてきた植物由来の乳酸菌のほうがあっているでしょう、ということです。

体との相性に違いはありますか?

――日本人には、大昔から慣れ親しんできた植物性由来の乳酸菌があっているということでしょうか?

そうですね。実際に日本人、外国人を比較した実験を行ったわけではないのですが、日本人の歴史を見る限りそうではないかと考えています。

Q5 植物性乳酸菌には生菌と死菌(死んでいる菌)がありますが、効果に違いはありますか?

乳酸菌に期待されている効果には、主に整腸作用と免疫の調節作用の二つがあると考えています。整腸作用のためには、乳酸菌が生きた状態で届いたほうがいいと思います。免疫の調節作用に関しては、乳酸菌は生きていても死んでいてもかまいません。同じような効果が期待できます。

――菌数だけを考えると、生菌よりも死菌の方がたくさん摂取できますよね。

ええ、摂取はしやすいと思います。

――免疫の調節作用に関しては生菌でも死菌でも同じ効果が期待できるとのことですが、手軽に摂取できるサプリメントなどで菌数を多く摂取するとどうなりますか? 体へのいい効果がより期待できるのでしょうか?

ただ量を多く摂れば良いというものでもないので、難しいですね。
例えば「乳酸菌摂取のためにキムチを食べてください」と言われて、キムチを毎日何百グラムも食べたとしますよね。あまりにも大量のキムチを毎日食べてお腹を壊してしまう可能性も出てくるし、一概に大量に摂ったらいいですよとは言えないんです。

ちなみに乳酸菌の死菌をパウダーにした場合でも、頑張っても発酵食品から摂取できるせいぜい100倍程度にしかなりません。菌数を多く摂ることは、そんなに気にする必要はないと思います。

キムチ

Q6 発酵食品とサプリメント、どちらから植物性乳酸菌を摂取しても同じ効果は期待できるのでしょうか?

はい。基本的にそう考えていただいて良いと思います。

Q7 腸内の乳酸菌を増やすためにはどうすればよいのでしょうか?

新しく体内に入った乳酸菌は、3~4日程度は腸内に存在しています。なので、乳酸菌を常に毎日摂っていれば、多くの乳酸菌を腸内に存在させることはできます。
ただし、摂取した乳酸菌が常在菌として腸内に定着するということはありません。腸内に入った外来の乳酸菌は、入れ替わってしまいます。最終的には腸内に常在している乳酸菌が、摂取した乳酸菌に打ち勝っていきます。

――常在している乳酸菌というのは、摂取した外来の乳酸菌(通過菌)とは種類が異なるのでしょうか?

分類学的には同じ菌種もいると思いますが、常在菌は従来から腸内に住み着いている菌で定着していて、外来の菌は追い出されます。その仕組みがないと、我々は食べたものによってお腹の中の菌や微生物が一変してしまい、健康状態を安定させられないですよね。
ですから、常に元の菌が常駐する仕組みになっています。

最近では大腸内視鏡などで腸内の菌を綺麗に取り除いてしまうこともあります。そういった場合でも、しばらくするとその人の体内にもともと住み着いてきた乳酸菌が戻ってきて、腸内は元の状態に戻ります。
腸内を空っぽにしてそのあと漬物をたくさん食べたら、お腹の中に漬物の乳酸菌が住み着く、というわけではありません。これは実験でも明らかになっています。
ですから、食べた乳酸菌に期待するということと、常在する乳酸菌に期待することは意味が違うんですね。

――常在乳酸菌というのは先天的なものなのでしょうか? ある程度は後天的に変えられるものなのでしょうか?

そのあたりは未だに分からない部分も多いのですが、生まれるときに母親から受け継ぐ要素が大きいのではと考えています。赤ちゃんはお腹の中にいるときは完全な無菌状態なのですが、生まれて数時間もすると腸内細菌が住み着きはじめます。お腹の中から産道を抜けてくる際に、赤ちゃんの口から菌が入ります。そこで母親譲りの菌が赤ちゃんの腸の中に常在していくと言われています。

赤ちゃん

――その後の人生で腸内に常在する乳酸菌がどう変化していくのかは、まだ未知な部分も多いということなんですね。

はい。まだ分からないところがたくさんあります。腸の中にいる乳酸菌、2~3種類程度であれば追跡が可能ですが、実際は何百種類という菌がいるわけです。そこには良い菌か悪い菌かもわからないような菌を含めて、膨大な数がいるわけですよね。それを全部追いかけていくというのはほぼ不可能に近いのです。

でも近年、遺伝子解析法が発展し、腸内にいる多くの細菌類を個別に環境や状況の変化に応じた増減を見ることができるようなってきました。これらの研究成果がまとまってくる事が待たれます。

Q8 日本人にぜひ摂取してほしいという植物性乳酸菌はありますか?は

一概には言えません。人によります。私は植物性乳酸菌を研究していますが、だからといって植物性乳酸菌が絶対にいいと考えているわけではありません。ヨーグルトやラブレなどいろいろな乳酸菌があり、人それぞれ相性が違います。

今まではヨーグルトやドリンク、乳酸菌サプリメントなど、動物性乳酸菌のものか、ヒト由来の乳酸菌のものしか知られていませんでしたが、最近では植物性乳酸菌を入れた飲料やサプリメントが認知されるようになりました。みなさんがヨーグルト以外にも植物性乳酸菌を選択することができるようになったという点で、人々の選択の幅を広げたということに大きな価値があると思います。

日本人にぜひ摂取してほしいという植物性乳酸菌

――あくまでその人が摂取してみて、相性を判断するのが正しいということなんですね。

はい。植物性乳酸菌よりもヨーグルトのほうが調子がいいという方も実際におられますし、それはその方にはヨーグルトの乳酸菌が合っているんですね、ということです。
口にした際にどちらが調子が良くなるかというのは、消費者の方が判断していただければ良いと思います。

Q9 乳アレルギーの人でも、植物性乳酸菌の食品は摂取していいですか?

乳アレルギーの人は、乳酸菌に対してアレルギー反応を起こしているわけではなく、ヨーグルトならミルクにアレルギー反応を起こしているわけです。ミルクを使っていない、例えば豆乳の乳酸菌飲料であれば、ミルクアレルギーの方でも摂取しても大丈夫です。
逆にミルクに植物性乳酸菌を入れた商品があるとすれば、それはベースがミルクですからアレルギー反応を起こしてしまいます。

Q10 植物性乳酸菌でヨーグルトはつくれますか?

種に使う植物性乳酸菌に乳糖を発酵する力があればヨーグルトは作れます。植物性乳酸菌の半分以上はミルクに含まれている糖(乳糖)を発酵しませんので、それらの植物性乳酸菌ではヨーグルトは作れません。

植物性乳酸菌でヨーグルトはつくれますか?

――豆乳の場合だといかがでしょうか? 豆乳であれば植物性乳酸菌で豆乳ヨーグルトができるものなのでしょうか?

できるにはできると思います。ただ美味しいものができるかというと、難しいと思います。形はできたとしても、食べたときになんか漬物臭いな、ということが多いということですね。手近にある植物性乳酸菌で野菜ジュースを発酵させてみると、漬物臭さを残してしまう乳酸菌がけっこう多いです。匂いのない乳酸菌を探すのに数百という植物性乳酸菌を試してみて、その中の一つの菌でようやく美味しいものが仕上がる、そういった確率になってきます。

植物性乳酸菌がどういうものなのか、専門的で複雑な話もかみ砕いて、とても分かりやすく教えていただきました。
ぜひ岡田先生のお話を活かして、ご自身に合った乳酸菌や食材を生活に取り入れてみてください。講義や研究でお忙しい中、インタビューのお時間をくださった岡田先生、ありがとうございました。

植物性乳酸菌

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