コリアンダーとパクチー|その違いと効能、おすすめレシピ
スパイスとしても薬草としても古い歴史をもつコリアンダー。
聖書やエジプト古文書、アラビアンナイトの物語にもその名が載っているという由緒ある薬草ですが、日本では近年ハーブとして爆発的な人気を得ています。
今回は、そんなコリアンダーとパクチーの違いや、薬草としての効果・効能、使い方など、さまざまな情報でコリアンダーとの楽しい付き合い方をご紹介します。
コリアンダーとは
コリアンダー(英語:Coriander)はセリ科の1年草。韓国(コリア)を思わせる名称ですが、原産地は地中海沿岸です。
種はスパイスとして、生葉はハーブとして使われ、日本では「パクチー(タイ語)」「シャンツァイ(中国語)」などさまざまな言語で呼ばれています。
エスニック料理のイメージが強いコリアンダーですが、実は古代ギリシャやローマ時代から使われる古いハーブで、アジアからヨーロッパまで世界各国で使われています。
英国ナショナルトラスト協会が監修した『ハーブ図鑑110』(著/レスリー・ブレンネス 訳/槙島みどり、日本ヴォーグ社)によれば、薬草として少なくとも3000年以上の歴史があるそうです。
中国では「永遠の命を与えてくれる」と考えられていたといい、中世には媚薬に調合されていたというエピソードもあるコリアンダー。
大昔から現在まで、世界中の人々を魅了してやまないハーブのひとつです。
コリアンダーの味と香り
コリアンダーは、リーフ(生葉)とシード(種)で全く味・香りが異なります。
種類 | 味・香り |
---|---|
コリアンダー(リーフ) | ・ピリッと刺激的で目が覚めるような味 ・スパイシーで強さのある独特な香り ・香りがカメムシに似ているという人も(別名カメムシソウの由来) |
コリアンダー(シード) | ・甘く香ばしい芳香 ・柑橘系の香り ・未熟な果実はリーフに近い香り。 熟すに従い柑橘系の芳香になる |
このため、主菜からデザートまで幅広い料理で利用されています。
リーフの方はその香りの強さから、人によって好き嫌いがハッキリと分かれるようです。
好きな人は中毒性を感じるほどに好き、嫌いな人は食卓に載っているだけでイヤ…なんとも強烈な個性をもったハーブなのです。
コリアンダーとパクチーの違い
「パクチー」「シャンツァイ」と呼ばれることもあるコリアンダー。
一体違いは何なのかと疑問に思っている方も多いでしょう。
コリアンダー、パクチー、シャンツァイは、全く同じ植物を別の言語で呼んだものです。
「でも、何か別のものを指しているような感じもするし…」とお考えの方もいらっしゃいますよね。
そうなんです。日本での使われ方は微妙に異なります。
名称 | コリアンダー | パクチー | シャンツァイ(香菜) |
---|---|---|---|
言語 | 英語 | タイ語 | 中国語 |
日本での一般的な使用法 | ・シード部分を指して呼ばれることが多い | ・葉、茎、根について呼ばれる ・エスニック料理全般で呼ばれる |
・葉、茎、根について呼ばれる ・中華料理の際に呼ばれる |
生葉についてはタイ語で「パクチー」と呼ばれることが多いようですね。
日本で近年パクチーが大ブームとなり、パクチーの専門店ができたりパクチー愛あふれる人々が「パクチニスト」と呼ばれたりする現象が起きていますが、海外で「パクチー」と言ってもタイ以外の国では通じませんので注意しましょう。
なお、タイには他にも「パクチー」と名のつく植物が存在します。
「パクチー・ラオ(英名:ディル)」や「パクチー・ファラン(別名:ノコギリコリアンダー、オオバコエンドロ)」などがそうですが、これらは同じセリ科でもコリアンダーとは全く違う植物。
コリアンダーと同種なのは、日本で一般的にパクチーと呼ばれている「パクチー・ラー」だけです。
コリアンダーの効果・効能
薬用植物として長い歴史をもつコリアンダー。現代の研究でもさまざまな効能について実験が重ねられています。
効果1 血糖値上昇抑制効果
コリアンダーの種子は血糖降下作用があり、糖尿病対策に役立つといわれています。
動物実験では、コリアンダーの抽出物にはインスリンの放出を増加させたり、LDLコレステロールを低下させたりする効果があることがわかっています。
参考文献:Eidi M, Eidi A, Saeidi, Molanaei, Sadeghipour, Bahar(2009)”Effect of coriander seed (Coriandrum sativum L.) ethanol extract on insulin release from pancreatic beta cells in streptozotocin-induced diabetic rats.”
効果2 抗酸化効果
コリアンダーには、アスコルビン酸やフェノール類など抗酸化効果をもつとされるいくつかの成分が含まれています。
特に根の部分に抗酸化作用が強いようです。
参考文献:Tang,Rajarajeswaran,Fung,Kanthimathi(2013)”Antioxidant activity of Coriandrum sativum and protection against DNA damage and cancer cell migration”
効果3 心臓疾患のリスクを下げる効果
コリアンダーの種子には、高血圧やLDLコレステロールの増加などをコントロールし、心臓疾患のリスクを下げる効果があるといわれています。
動物実験では、コリアンダーの種子によってLDLコレステロールの低下とHDLコレステロールの上昇が確認されたそうです。
参考文献:Dhanapakiam, Joseph, Ramaswamy, Moorthi, Kumar(2008)”The cholesterol lowering property of coriander seeds (Coriandrum sativum): mechanism of action.”
効果4 脳の炎症改善と不安の軽減効果
伝統的な医学では、コリアンダーは痛みの緩和、抗不安、抗けいれん作用を期待して処方されているそうです。
現代の動物研究でも、コリアンダーの葉には神経保護効果や抗不安効果、抗けいれん効果があるという結果が出ており、アルツハイマー病の治療薬として利用できる可能性も示唆されています。
参考文献:
・Pourzaki,Homayoun,Sadeghi, Seghatoleslam, Hosseini, Bideskan(2017)”Preventive effect of Coriandrum sativum on neuronal damages in pentylentetrazole-induced seizure in rats”
・Mahendra,Bisht(2011)“Anti-anxiety activity of Coriandrum sativum assessed using different experimental anxiety models”
・Mani,Parle,Ramasamy, Abdul Majee(2010)“Reversal of memory deficits by Coriandrum sativum leaves in mice.”
効果5 抗菌効果
コリアンダーの葉には抗菌効果があることが知られています。
さらに実験により、コリアンダーのエッセンシャルオイルにはカンジダ菌に対する強力な抗真菌活性があることがわかったそうです。
参考文献:Freires, Murata, Furletti,Sartoratto, Alencar, Figueira,Rodrigues, Duarte, Rosalen(2014)”Coriandrum sativum L. (Coriander) Essential Oil: Antifungal Activity and Mode of Action on Candida spp., and Molecular Targets Affected in Human Whole-Genome Expression”
コリアンダーの使い方
コリアンダー(リーフ)の使い方
- 使い方①のっけて、和えて、炒めて
- コリアンダーリーフ(パクチー)は切れ込みの入った葉が美しく、肉料理や魚料理の上に盛るだけで見栄えのするプレートに。苦手な方は別のハーブに替えることもできるのでおすすめです。
- コリアンダーリーフ(パクチー)は好みが分かれるハーブです。
和え物、炒め物にすると全体がその香りになりますので、好みが分からない人がいる場合はドレッシングやタレを複数つくって、ドレッシング・タレの方にコリアンダーリーフを入れるなど工夫しましょう。
- 使い方②根っこも捨てずに活用
- 葉よりも根の部分が薬効が高いという研究もあるコリアンダー。
- 香りも強く、細かく刻んで炒め物に使ったり、スープに入れてダシとして利用したり、さまざまに利用できます。
- あまり好きではない、という方は植木鉢に植えて栽培するとそこからまた葉が伸びてくるので、ぜひ試してみてください。
- 使い方③調味料として
- コリアンダーリーフ(パクチー)が余ったら、ぜひ「パクチーオイル」を作ってみてください。
うどんやラーメンに垂らすだけでエスニック風になる便利なオイルで、しゃぶしゃぶや焼き肉のタレとして使うのもおすすめです。
そのままご飯にかけていただいてもおいしいですよ。
パクチーオイルの作り方
材料
- ・コリアンダーリーフ(パクチー)
- 5株程度(みじん切り)
- ・ごま油
- 100ml
- ・ニンニク
- 2~3かけ(みじん切り)
- ・赤唐辛子
- 2本(小口切り)
- ・塩もしくは醤油
- 適量
つくり方
- 1
- ごま油、ニンニク、唐辛子、パクチーの根をフライパンに入れて、弱火で焦がさないように香りを出します。
- 2
- ニンニクに色がついたら火を止め、粗熱がとれたらパクチーと塩もしくは醤油を加えます。
- 3
- 冷蔵庫で保存してください。
コリアンダー(シード、ホール)の使い方
華やかな柑橘系の香りが特徴のコリアンダーシード。
パウダーよりも香りが強く、カレーだけでなくさまざまな料理に使われます。欧米ではそのまま噛まれることもあるようです。
- 使い方①スタータースパイスとしてカレーや炒め料理に
- コリアンダーシードをホールのまま使う場合は、調理の最初に油の中に入れ、弱火で香りを出して使われることが多いです。
- 本格カレーはもちろん、いつものルーカレーの最初にクミンやコリアンダーシードをスタータースパイスとして使うだけでも、1ランク上の風味を楽しむことができますよ。
- 使い方②ピクルスなどの香りづけに
- ピクルスやマリネなどの香りづけに使われることの多いコリアンダーシード。
- シード自体の保存方法として「酢に浸けて香りを浸出させる」という方法が挙げられることもあり、酢との相性は良いようです。
- 柑橘を思わせる香りなので、レモンやライムなどの果汁ともよく合います。
キャロットラぺなどに入れるのもいいですね。
- 使い方③柑橘の香りのスイーツに
- コリアンダーシードをパウンドケーキやクッキーなどに入れると、ほのかにスパイシーで華やかな、柑橘系の香りがするスイーツに。
- 挽いて使ってもいいですが、シードのまま加えると、プチプチと噛んだときに鮮やかな香りがたちのぼります。
- 単独で加えても、他のスパイスやドライフルーツ、洋酒などと一緒に使っても。
- 使い方④ハーブティーとして
- コリアンダーシードをハーブティーにすると、甘くスパイシーでエキゾチックな香り。
- 淹れる前に軽く叩いて潰しておくと香りが立ちやすいです。
- 食べ過ぎたときや口臭が気になるとき、リラックスしたいときにおすすめです。
- また、市販のビールに入れるとフルーティーな香りが楽しめるため、いつものビールにちょっと変化をつけたいというときにもどうぞ。
コリアンダー(シード、パウダー)の使い方
多くのインド料理やカレーなどに入っているコリアンダーパウダー。
コリアンダーシードを挽いたものですが、香りはシードと比べておだやか。レシピに「コリアンダーパウダー」とある部分をシードを挽いたもので代用するとバランスが変わってしまうこともあるので注意してください。
- 使い方①カレー風味のミックススパイスとして
- 香りがマイルドなぶん汎用性は高く、ラムカレーからフィッシュカレー、豆のカレー、ピラフやサモサ、スープなどさまざまな料理に使われます。
- クミンパウダーやターメリックパウダー、チリパウダーなどと一緒にどうぞ。
ホールスパイスは油で香りを抽出しますが、パウダースパイスは玉ねぎを炒めた後など、煮込む前に加えられることが多いようです。
- 使い方②柑橘の香りのスイーツに
- ホールと同様、パウダーも柑橘系の香りのスイーツに使うのがおすすめです。ケーキやクッキーなどは全体がほんのり香る仕上がりに。プリンのようななめらか系デザートにも使えます。
コリアンダーレシピ
葉っぱから根っこ、種まで使えるコリアンダーですが、今回はスパイスとしてのコリアンダーシードを使ったレシピをご紹介します。
豆と鶏肉のカレー
今回は豆をたっぷり使ったカレー。お肉と豆がダブルで入っているので、濃厚で食べ応えたっぷりの一皿です。いんげん豆ではなくひよこ豆など別の豆でも作れます。
材料
- ・鶏もも肉
- 400g
- ・赤いんげん豆
- 1カップ
- ・玉ねぎ
- 2個
- ・ニンニク
- 2かけ
- ・ショウガ
- 1かけ
- ・トマト缶
- 150g
- ・油
- 大さじ1
- ・塩
- 適量
ホールスパイス
- ・クミンシード
- 小さじ1
- ・赤唐辛子
- 2本(半分に切って種を除いておく)
パウダースパイス
- ・コリアンダーパウダー
- 小さじ2
- ・ターメリックパウダー
- 小さじ1/2
- ・チリパウダー
- 小さじ1
- ・ガラムマサラ
- 小さじ1
つくり方
- 1
- 赤いんげん豆はひと晩水に浸しておきます。
- 2
- 圧力鍋に豆と水を加えて強火で加熱し、圧力がかかったら10分ほど加圧します。火を止めて、圧が抜けるまでおいておきます。
- 3
- 玉ねぎ、ニンニク、ショウガをみじん切りにします。
- 4
- フライパンに油をしき、クミンシードと唐辛子をあたため、香りを出します。
- 5
- 4にニンニク、玉ねぎ、ショウガを加えて色づくまで炒めます。
- 6
- 一口大に切った鶏肉とガラムマサラ以外のパウダースパイスを加え、鶏肉に火が通ったらトマト缶を入れて煮詰めます。
- 7
- 6に2の豆を潰しながら入れます。ちょうどよいとろみになるまで煮汁も加え、弱火で煮ます。
- 8
- 塩、ガラムマサラを加えてひと混ぜし、できあがりです。
マーマレードとコリアンダーの華やかスペアリブ
ジャムやデザートなどのほか、このような漬けダレに入れたりお肉のソースなどに利用したりするのもおすすめです!
材料
- ・豚スペアリブ
- 500g
調味料
- ☆マーマレード
- 80g
- ☆ニンニク
- 1かけ
- ☆しょうゆ
- 大さじ4
- ☆酢
- 大さじ2
- ☆コリアンダーシード
- 大さじ1(軽く叩いて潰す)
- ☆黒こしょう
- 適量
つくり方
- 1
- スペアリブにはフォークで穴をあけておきます。ニンニクはすりおろします。
- 2
- ボウルに☆を合わせ、スペアリブを漬けてもみこみます。そのまま冷蔵庫で1時間ほどおいておきます。
- 2
- 冷蔵庫から出して常温に戻します。肉を天板に並べ、200℃のオーブンで20~30分ほど焼いてできあがりです。
コリアンダークッキー
ナツメグやシナモンなどとブレンドして作ってみてもおいしいですよ。
材料
- ・薄力粉
- 260g(ふるっておく)
- ・無塩バター
- 150g
- ・グラニュー糖
- 150g
- ・アーモンド
- 60g
- ・卵
- 1個(溶く)
- ・コリアンダー(ホールを挽いたもの、もしくはパウダー)
- 小さじ3
- ・塩
- ひとつまみ
つくり方
- 1
- アーモンドを細かく刻みます。
- 2
- ボールにバターとグラニュー糖を入れ、白っぽくなるまですり混ぜます。
- 3
- 2に溶いた卵を少しずつ加え、泡だて器でふわっとするまでかき混ぜます。
- 4
- 3に薄力粉と塩を加え、1も加え、サックリと切るように混ぜ合わせます。
- 5
- 生地をまとめて3等分し、転がして丸か四角の棒状にしてラップに包み、冷蔵庫で冷やします。
- 6
- 5が固く冷えたら取り出し、6ミリの厚さに切って天板に並べます。
- 7
- 160℃のオーブンで12~15分ほど焼きます。
- 8
- 粗熱をとってできあがりです。
コリアンダーについてのQ&A
- コリアンダーシードを他のスパイスで代用できますか?
- コリアンダーシードと香りの近いスパイスはありません。
カレーなどについては、コリアンダーシードが手に入らない場合は抜いてしまうか、味を見ながら市販のカレー粉を少々足してみてください。
- コリアンダーの精油の効果を教えてください。
- コリアンダーのアロマオイルには、気分をリフレッシュさせると同時に気持ちを落ち着かせる効果があるといわれています。
- コリアンダーの保存方法を教えてください。
- コリアンダーシードは、多くのスパイスと同様に高温多湿を避け、密封して保存してください。
- 「コリアンダー」という名前にはどんな意味があるのですか?
- 英名「コリアンダー」はギリシア語の「koriannon」に由来するといわれています。
その語が「カメムシ」という名前に由来するという説は広く流布していますが、明確な証拠はないようです。
- コリアンダーにはいろいろな品種があるって本当ですか?
- 病気に強い品種や収量の多い品種、オイルの含有量の多い品種など、その特性によっていくつかの品種が開発されています。