種麹のディープな世界ー作り方から種類、選び方まで

種麹のディープな世界

麹づくりに必要な「種麹」。
かわしま屋ではベーシックな黄麹菌から焼酎用の黒麹菌までさまざまな種麹を扱っていますが、たとえば同じ味噌用でも、仕上がりのイメージによって種麹が何種類もあるってご存知でしたか?

種麹の世界は、奥が深くて摩訶不思議。
今回は、日本の発酵食を愛する皆さまにぜひ読んでいただきたい、ディープな種麹ワールドをご紹介します!

種麹とは

種麹とは

種麹とは、麹を作るために集められた麹菌の胞子です。主に蒸した米などの穀物に振りかけて使います。
「麹菌」「種麹」「麹」の違いは次のとおり。

<麹菌と種麹、麹の違い>
麹菌 コウジカビのこと。
種麹 コウジカビを米などで培養し、胞子を集めたもの(粉状または粒状)。
穀類などにコウジカビを繁殖させたもの。現代では種麹を使って作られる。

実際に麹づくりで種麹を蒸し米に振りかけてみると、土に種まきや水やりをしている様子にそっくり。「麹の種」という名前の由来が実感できます。
種麹は「もやし」とも呼ばれますが、こちらも麹菌の菌糸が伸びる様子を植物が「萌える」様子に例えたもの。
日本人は、作物を育てるように麹を育ててきたのですね。

ちなみに、「〇〇麹」という呼び名は種麹以外にもたくさんあります。

<麹の呼び方と表す内容>
呼び方 内容
米麹、麦麹、豆麹など コウジカビを生やした原料による呼び分け。
「玄米麹」「多穀麹」なども含まれる。
黄麹、白麹、黒麹など 麹に繁殖したコウジカビの種類(色)による呼び分け。用途も異なる。
乾燥麹、生麹 麹の水分量による呼び分け。
塩麹、醤油麹など 麹を使って作られる食品を表す呼び方。

できあがった麹は、味噌や醤油、みりん、甘酒、日本酒、焼酎など、和食に欠かせないさまざまな食品の原料となります。
多くはフワッとした粉状で、生き物であることが実感しづらい種麹ですが、和食文化を根底から支える「陰の功労者」であるといえそうです。

種麹の作り方

種麹の作り方

古くは神様へのお供え物に生えたコウジカビから作られたという麹。お供え物が甘くなるという経験をした古代の人々は、それを神の恩寵であると感じたに違いありません。
それから長い年月を経て、麹づくり、種麹づくりは専門の人々の手に委ねられることになりました。

長年の経験と勘がものをいうという種麹づくり。ここでは現代の種麹の作り方をご紹介します。

種麹はこうやって作られる!

昔は稲などから菌を採取し、灰を使って他の菌を殺菌することで純粋な麹菌を培養していたようです。
現代では機械や無菌服を使い、汚染を防ぎながら作られています。

工程 作業内容
精米 精米は表面にほんの少し傷つけるだけ。ヌカ層が麹菌の栄養になります。
洗米 ヌカやゴミをしっかりと洗い流します。
浸漬 米の吸水率を計り、十分に水を吸水させます。
水切り 蒸したときにべたつかないよう、十分に水を切ります。
蒸し 均一な仕上がりになるよう、蒸し時間を調整しながら米を蒸します。
冷却 麹菌が育成できる温度まで蒸し米を冷まします。
種菌散布 研究室で培養された種麹の種「原菌」を蒸し米に散布します。
培養 蒸し米を麹蓋に入れる「盛り」、質を均一化するための「手入れ」「積み替え」などを行い、温度と水分を調節します。
この工程は種菌の種類によって異なります。経験と勘が頼りになる重要な工程です。
出麹 麹を室から出します。
乾燥 菌の活性を残しながら乾燥させます。(→粒状種麹)
胞子の回収 ふるいにかけて麹菌の胞子だけを集めます。
配合 散布しやすくするためにデンプンを配合します。(→粉状種麹)

「麹の作り方に似ているな」と思われた方も多いかもしれませんね。

麹は酵素を作ることを目的にしていますが、種麹の目的は「胞子」。そのため、生産の温度や時間が異なります。
麹は3日でできあがりますが、種麹は1週間ほどかけて作られるそうです。
原料に栄養豊富な玄米が使われるところもポイント。
麹菌が育成するための栄養分となり、長期間の育成中にその糧となるそうです。

種麹屋(もやし屋)と種麹

種麹屋(もやし屋)と種麹

種麹が生まれたのは平安時代末期から室町時代にかけて。
「水田の稲穂につく胞子の塊(稲麹)に灰を加えると麹菌だけを採取できる」という発見が、そのきっかけになったといわれています。

今から千年以上も昔、「人類史上初」と呼ばれる顕微鏡による微生物の発見よりも百年も早く、種麹屋(もやし屋)たちは自然の中から微生物を分離して販売していたのです。

現在、日本に存在するといわれる種麹屋は10社を下回りますが、各社とも個性ある種麹を製造しています。

かわしま屋では、創業300年以上といわれる京都「菱六」、多種多様な種類の麹を生産している「丸福種麹」、室町時代創業の「ビオック糀屋三左衛門」、麹だけでなく酵母や乳酸菌、テンペ菌なども作っている「秋田今野商店」、大阪の「ヒグチモヤシ」など5社の麹を取り揃えています。

種麹の種類と選び方

種麹は、菌の種類や株によって生産する酵素の量が異なり、同じ黄麹菌でもタンパク質を分解しやすいもの、デンプンを分解しやすいものなど性質が異なります。

菌の種類によって「甘い甘酒になりやすい」など仕上がりが異なるので、種麹屋は複数の菌種を混ぜて「醤油用」「味噌用」などブレンドした種麹を作ることも多いそうです。

種麹は、作りたい食品に合わせて選びましょう。

種麹の種類

種麹は、手でも扱いやすい粒状種麹と、茶こしなどで散布する粉状種麹が存在します。
どちらでも使いやすい方でいいでしょう。

麹菌の種類や株、それらのブレンドによって、各社がさまざまな種麹を製造しています。
ここでは、どの種麹がどんな食品に向いているか、かわしま屋で取り扱っている種麹を用途別に分類してみました。

<甘酒・甘い味噌など>

甘酒・甘い味噌など

商品名 特徴 用途
→長白菌(菱六) ・菱六種麹の中で最も白い
・冴えのある白い麹に仕上がる
・白さをいつまでも保つ
甘酒・白甘味噌
→改良長白菌(菱六) ・白系種麹の中で糖化力、タンパク質分解力共に優れた麹菌
・幅広い用途に適する
甘酒・淡色味噌・白甘味噌
→SR-108(菱六) ・酵素力が強く、大量の麹が作れる
・麹の白さを保つ
・機械製麹に適する
甘酒・淡色味噌・白甘味噌
白百合菌(丸福種麹) ・長毛系の白胞子菌
・白さを保つ
甘酒、白味噌
→白麹雪こまち(秋田今野商店) ・純白の麹
・ハゼ込みがよく、糖化型の菌
甘酒、味噌、加工用
糀の種白もやし(ヒグチモヤシ) ・万能タイプの麹
・白色タイプ
甘酒、味噌、塩麹

<各種味噌用>

各種味噌用

商品名 特徴 用途
→小袋粉状(菱六) ・バランスのよい味に仕上がる
・色は黄色
米味噌・麦味噌
→金山寺用(菱六) ・豆麹に最適
・旨みの強い豆味噌に仕上がる
豆味噌・米味噌・麦味噌・白味噌
MP-01菌(丸福種麹) ・発熱が早い
・味噌の着色は穏やか。淡色系の味噌に適する
淡色味噌
味噌用種麹菌(丸福種麹) ・発熱が順調で扱いやすい 米味噌、麦味噌
九州麦味噌菌(丸福種麹) ・着色を抑えた麦味噌や合わせ味噌に
・大麦(裸麦)に破精回りの良い菌
麦味噌、合わせ味噌
米味噌菌(丸福種麹) ・米培養した粒状を粉砕したもので、麹菌菌糸も含まれているので増殖が強い 米味噌
M-1菌(丸福種麹) ・糖化酵素の生産量が非常に高い
・とても甘味の強い味噌に仕上がる
甘味噌
EM-2号菌(丸福種麹) ・タンパク質分解酵素、デンプン分解酵素ともに非常に強い
・製麹し易い菌
味噌
特性麦味噌菌(丸福種麹) ・金山寺味噌に
・タンパク質分解酵素が強い菌
赤系麦味噌
豆味噌
今野モヤシ(秋田今野商店) ・胞子は緑色
・味噌用
味噌
→豆味噌用(秋田今野商店) ・香りが良く、濃褐色で濃厚な味の豆味噌に仕上がる
・タンパク質分解酵素が強く繁殖の早い麹菌
赤味噌、豆味噌
糀の種黄色(ヒグチモヤシ) ・菌力の強い黄色タイプ
・色のついた菌の強い麹に
味噌
橋本菌(ヒグチモヤシ) ・発熱がおだやかで扱いやすい
・香ばしい仕上がり
・タンパク質分解酵素が強く繁殖の早い麹菌
豆味噌用

<醤油・焼酎>

醤油・焼酎

特徴 用途
→醤油用(菱六) ・醤油が風味よく仕上がる 醤油
強化醤油菌(丸福種麹) ・乳酸菌・酵母入り 醤油
MC-01菌(丸福種麹) ・発熱が早く、ハゼ回りも良好
・バランスのとれた酵素力価で扱いやすい
醤油
醤油1合菌(秋田今野商店) ・とろりとした醤油用種麹
・発熱が早く、作りやすい
・窒素利用率が高い性質
醤油
醤油麹用種麹 (ビオック糀屋三左衛門) ・本格的な醤油づくりを希望する人に 醤油
醤油用種麹(ヒグチモヤシ) ・増殖が早く麹が締まりにくい
・タンパク質分解酵素生成能が強い
・使い易い種麹
醤油
→焼酎用黒こうじ菌(秋田今野商店) ・雑菌に強いクエン酸を大量に生み出す
・どっしりと濃厚で骨太な味わいに仕上がり、味にコクがある
焼酎

同じ味噌用でもさまざまな種麹があることがわかりますね。
種麹を使っていろいろな種類の麹を作り、味噌の仕上がりを比べてみるのも面白いかもしれません!

種麹から作る麹の作り方

それでは、各種種麹を使って麹を作ってみましょう!
麹は35~40℃の温度でデンプン分解酵素を多く作り、25~30℃の温度でタンパク質分解酵素を多く作るそうなので、慣れてきたら用途や味の仕上がりの好みに合わせて作り方を加減するのもいいかもしれません。
材料720g分(米麹の場合。できあがり量)
調理時間3日間

種麹から作る麹の作り方

 材料

・米
4合
・種麹(麹菌)
5g
※家庭でも成功しやすい分量。自信のある方はもっと少なくてもOK

 道具

・蒸し布
1~2枚
・蒸し器(せいろ)
1台
・ふきん
2枚
・発酵器
1台
・麹蓋
1~2枚
・温度計
1個
・茶こし
1個
・しゃもじ
1個

 つくり方

麹づくりには準備日を除いて計3日間が必要です。
3日間は日中の作業が必要になるため、時間の余裕を作ってトライしてください。

時間 作業
前日 19:30 米を洗う にごりがなくなるまで
20:00 米を水に浸ける(浸水時間は気温による) 季節によって時間を変えて
1日目 8:00 米の水切り(2~4時間) しっかり水切りが大切
10:00 米を蒸す(40分程度) 強い蒸気で蒸しあげる
11:00 種切り(米を冷まして種麹の振りかけ) 種まきするみたいで楽しい作業
12:00 引き込み(まとめて発酵器へ) 赤ちゃんを見守る気分
2日目 6:00 切り返し(塊をほぐす) 麹の甘い香りにうっとり
9:00 盛り(麹蓋に移して乾燥) 状態の見極めが必要な作業。麹の品質を左右する要の仕事!
15:00 仲仕事(ほぐして攪拌)
22:00 仕舞仕事(ほぐして攪拌)
3日目 6:00 出麹(麹の完成!) 真っ白な色と栗のような香り

詳しい手順は、麹の種類別にこちらのページでお伝えしています。

ヨーグルティアでも麹が作れる?
発酵器がない場合は、ヨーグルティアで麹を作ることも可能です。
蒸し布につつんだ蒸し米をヨーグルティアの容器にいれ、密封せずに使います。
容器の底には水分が溜まるため、紙皿に穴をあけたものなどを敷いて通気性を保ってください。

種麹は手作りできる?

昔の日本人は天然の麹菌を採取して麹づくりを行ってきました。
「麹菌が我が家の空気から採取できたら、正真正銘の自家製麹…」そう考える方がいるのも分かりますが、これまで見てきたように、種麹づくりは細心の注意を払ってクリーンな環境を保ち、細やかな温度管理を行って作られています。

素人にはおいしく安全な麹を自作することは難しく、専門店が作ったものを使用することをおすすめします。

種麹の保存法

種麹は冷蔵で保存するのがおすすめです。湿気を避けるために除湿剤などと一緒に袋に入れておくといいでしょう。
使用期限は製造後半年ほどです。

保存の間に、増殖力は徐々に弱まっていきます。
使用期限内であってもなるべく早く使い切るようにしましょう。

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種麹についてのQ&A

種麹は玄米にかけても麹を作れますか?
玄米で作った麹を「玄米麹」と呼びます。
玄米のままでは菌糸が入り込みにくいので、ほんの少し精米してから作ります。
一般的な白米の麹と比べて、香ばしくてコクのある麹ができあがります。
種麹はどこで買えるのでしょうか?
種麹屋は全国に数えるほどしかありませんので、通信販売で購入される方が多いようです。
かわしま屋でも各種取り扱っています。
種麹の消費期限を教えてください。
種麹は、冷蔵庫で製造後半年ほど保管できるようです。
少しずつ増殖力が衰えてしまうため、早めの使用をおすすめします。
甘酒用、味噌用におすすめの種麹を教えてください。
甘酒用には白くて糖化力の優れた種麹がおすすめです。
味噌用にはタンパク質分解酵素を多く産生する種麹がおすすめです。
それぞれ、種麹の種類によって特色がありますので、詳しくは本文中の「種麹の種類」を参考にお選びください。
種麹が古い場合、繁殖力は劣りますか?
種麹は、保存期間が長くなればなるほど増殖力が衰えます。なるべく早く使いましょう。
種麹は海外発送できるのでしょうか?
海外への食品発送は日本国内と違い、相手国の都合で輸入ができなかったり、うまく届かなかったりといったトラブルもあります。
種麹は店舗によっては海外発送を行っているようです。
当店では、海外発送をご希望のお客様には海外発送代行サービスの【転送コム】をご利用頂いています。
種麹を使って麹を作りましたが、臭い気がします。
においや味がおかしいと感じた場合は、雑菌が繁殖している可能性があります。
もったいないですが、食べずに破棄してください。

おすすめの種麹

かわしま屋取り扱いのおすすめ商品をご紹介いたします。






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この記事を書いた人

パン作りと温泉をこよなく愛する2児の母。老後は伊豆で大きな犬と暮らすのが夢です。豆乳が好き、猫は苦手。